再起力の高い人材や組織に共通する三要件
思い出してみると、平成23年は、
私にとって大変厳しい年でした。
そして私だけではなく、
東北各地で被災した方々にとって厳しい年であったと思います。
いま、全世界において、新型コロナウイルスという、
かつてない危機に直面している状況になっています。
皆さんの声を聴きながら、
一つ一つ解決をしている状況ですが、
医療関係者の皆様をはじめとして、
それぞれの分野でそれぞれの地域で、
明確な答えを見つけることが難しいなか、
最大限お力をいただいていることには本当に感謝しかありません。
未知の困難のなかではありますが、
過去において危機に直面した経験が生きてくるということは、
どんな状況でも大いにあるものと思っています。
震災の年になりますので9年ほど前になりますが、
『DIAMOND Harvard Business Review
(ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年5月号』に、
「再起力とは何か」
と題して、危機や困難、あるいは未知の課題に遭遇した時に求められる力について、
そして、再起力の高い人材や組織に共通する三要件について
解説していますので、ここであらためて紹介したいと思います。
この「再起力とは何か」は、
2002年10月号が初出で、
同時多発テロ後のアメリカの
驚異的再起力があってのものと思われます。
およそ10年おきの危機に学ぶべきことは多いものです。
DIAMOND Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年5月号
特定の人や組織は、
危機に際し押しつぶされてしまうことがあります。
一方で、
一時的に屈することはあっても、
すぐ回復する人や組織があります。
そのちがいは何か?
たしかに私の周りを見渡しても、
危機を乗り越えられない組織や人はいました。
消えていきました。
私自身も消えた経験がありますし、
危機を乗り越えられない状況になったこともありました。
失業し、選挙に落選したことで、
経済的危機になり、当時の借金は最近ようやく返しましたが、
選挙を繰り返しているので借金を再び繰り返している状況です。
いまも危機であるといってもいいかもしれませんね。
しかし一方で、
危機を乗り越え、
しばらくすると何も過去になかったかのように
再起する組織や人もあります。
不思議なものです。
今日、再起力に関する理論は膨大にあるのだそうで、
たとえばモーリス・バンダーポルの研究によると、
「ホロコーストの体験者」
について以下のようなことがわかったそうです。
健康に支障を来すことなく強制収容所をくぐり抜けた生存者たちに、
「プラスチックの盾」
と呼ぶ性質が備わっている。
この盾は、
「ユーモアのセンス」
「他者に愛着を抱く能力」
「暴力的な他者の侵入から自衛を図るような心的機能」
などの資質から成り立つ。
また、サーチ・インスティテュートの研究によれば、
「再起力の高い子どもは自分を支援するよう大人を仕向ける
不思議な力を備えている」
のだそうです。
また最近の研究では、
再起力は遺伝ではなく、
学習できることが示されています。
それでは、
「再起力の高い人に共通する三つの能力とは何か」、
筆者がここで示しています。
――――――――――――――――――――――――
1、現実をしっかり受け止める力
2、「人生には何らかの意味がある」という
強い価値観によって支えられた、確固たる信念
3、超人的な即興力
――――――――――――――――――――――――
さらに筆者が指摘しているのは、
再起力は「楽観的性格ゆえのものでは必ずしもない」ということ。
ベトナム戦争でベトコンに捕えられ、
八年間も虐待を受け続けたジム・ストックデール将軍のお話を、
あのジェームズ・C・コリンズが考察しています。
――――――――――――――――――――――――
【引用ここから】
私はストックデールに尋ねた。
「最後まで耐えられなかったのは、どういう人ですか」。
すると彼は「それは簡単に答えられます。楽観主義者です。
そう、クリスマスには出られると考える人たちです。
クリスマスが終わると、復活祭までには出られると考える。
次は、七月四日の独立記念日で、その次は感謝祭。
そして、またクリスマスが…」と答えた。
そして、ストックデールは私に向き直って言った。
「失望が重なると死んでいくのではないでしょうか」と
【引用ここまで】
――――――――――――――――――――――――
再起力の高い人は、
生死に関わる現状について、
冷静かつ現実的な見解をもっている
ということになります。
2つ目ですが、
差し迫った状況に直面すると、
自分自身を犠牲者と考え、
嘆きあきらめる人たちがいます。
しかし再起力の高い人は、
自分自身や他者にとっての意味を見つけ、
困難な状況を概念化しようとします。
本論文の著者の友人は、
原因不明の双極性障害のために、
10年にわたって神経障害を患っていました。
しかし今日、
彼女は大手出版社の要職にあり、
家族もおり、教会でも中心的な存在なのだそうです。
どうやって危機的状況から立ち直ったのかを尋ねると
「人々はよくなぜ『私がこんなつらい目に遭うのか』と言います。
しかし私は、『なぜ私じゃいけないの』と言ってきました。
たしかに、病気の間に多くのものを失いました。
けれども、最も悲惨な状況のなかで、
失うこと以上に多くの素晴らしい友人にめぐり会え、
彼らは私の人生に意味を与えてくれました」
意味を紡ぎだす作業。
再起力の高い人の多くが、
つらかった今日から充実した明日を確立しています。
もう一つ興味深い事例は、
アウシュビッツの生存者、ビクトール・フランクルの話です。
――――――――――――――――――――――――
【引用ここから】
おおむね何年もの間、囚人たちは収容所から収容所へと転々としているが、
遠慮会釈ない者だけが生き残った。
あらゆる手段に訴える気構えがあり、
みずからを救うという点で正直であり、また残忍ですらあった。
事実、生存者たちは良識のある人たちが生き残れなかったことを知っている。
【引用ここまで】
――――――――――――――――――――――――
再起力に関する三つ目の能力は
「手近にあるもので間に合わせる能力」。
たとえば、強制収容所では、
再起力の高い囚人は、ひもやワイヤーを見つけては拾っていたのだとか。
後で役に立つかもしれないから。
凍えるような寒さの中で、それで靴が直せれば生死すら分けかねないと。
状況が不透明で、他の人たちが混乱しているような時でも、
可能性を想像しながらなんとか切り抜ける。
以上、
現実をしっかり受け止める力、
「人生には何らかの意味がある」という強い価値観によって支えられた、確固たる信念、
超人的な即興力
の3つが、再起力には必要なのですが、
やはり他人には簡単にまねできないものだという結論を
筆者は下しています。
私は、立ち止まらないことというのも
再起力には必要だと思います。
立ち止まらずに動き続けることで、
再起のきっかけは生まれてくるのではないかと思っています。
新型コロナウイルスのもたらす全世界的な危機は、
身体的にだけでなく、私たちの心にも財産にも大きな傷を負わせています。
しかし、この危機のときだからこそ、
私たちの力が試されているものとも思います。
必ず、この危機を乗り越える、
そのために、いまできることをすべてやっていきます。
あらゆる手段があります。
打つ手は無限にあります。
限界を迎えている医療関係の皆様のご尽力に感謝しながら、
そしてこの危機の中、あらゆる知恵を絞り、
制度をつくり、必死になり動いていただいている方々に感謝しながら、
できる限りの知恵を皆様から頂き、
足りない点は補いながら、
前へ前へと進めていければと思います。
「再起力」とは何か
ダイアンL.クーツ
元ハーバード・ビジネス・レビュー シニア・エディター
DIAMOND Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年5月号
(第3492号 令和2年4月6日(月)発行)